精子調整のこだわり
人工授精や体外受精、顕微授精を行う際に欠かせないのが、精子の調整です。
卵子や受精卵の培養方法にさまざまな選択肢があるように、精子調整に使用する調整液やその方法にも多くの種類があります。
当院こだわりの精子調整方法を紹介します。

抗酸化剤を含んだ精子調整液
当院では、精子調整において抗酸化物質(antioxidant)を含む精子調整液、「Gx-IVF」という製品を使用しています。この調整液で精子を処理し、使用するまで静置することにより、酸化ストレスが原因となる精子のDNA断片化を軽減できると考えられています。
実際、当院のデータでは、IVFおよびICSIによる受精・培養成績において良好な結果が得られており、特にIVFにおいては胚盤胞の発生率や良好胚盤胞の発生率がともに良好な結果を示しています。そのため、この調整液を選択し使用しています。

密度勾配遠心法とSwim-up法を組み合わせた精液調整法
密度勾配遠心法は、精液中の細菌や精子以外の細胞、死滅精子を除去し、精子を濃縮することで、良好な精子を選別・回収するための処理法です。この方法では、成熟精子の比重が他の精子や細胞に比べて高いという特性を活かし、良好精子を効率的に選別します
さらに、密度勾配遠心法によって回収された精液の上に培養液を重層し、インキュベーター内で静置後、液面に泳いできた精子を回収するSwim-up法にて、運動性が良好な精子を回収します。

ZyMōt™ Sperm Separation Deviceによる精子調整(膜構造を用いた生理学的精子選択術)
現在、多くの施設が精子調整の方法として、密度勾配遠心法やswim-up法およびその併用を採用しています。精子の数が少なくても運動性の良好な成熟精子を集めることができる方法として、当院も基本的にこの併用法を行なっております。
しかし、精子に関する研究が盛んになり、精子のDNA断片化にフォーカスした精子調整方法が開発されました。 その一つが膜構造を用いて精子を選別する “ZyMōt Sperm Separation Device” という製品です。
通常の遠心操作を伴う方法では、遠心によるダメージによって一部の症例で精子のDNA断片化を増加させてしまいますが、 遠心操作が不要な本法ではよりDNA損傷が少ない良好な精子を選別できます。そしてその結果、より良好な胚の獲得につながることが期待されます。当院のデータでも、回収された精子のDNA断片化率が極めて低いことが示され、有意差は認めないものの、 受精後の培養成績は全体的に良好な結果が得られています。当院では精子調整方法の選択肢の一つとして取り入れています。