初期胚移植、胚盤胞移植、二段階胚移植(先進医療)
新鮮vs凍結胚移植
胚を子宮に戻す「胚移植」には、大きく分けて2つの方法があります。ひとつは「新鮮胚移植」。これは採卵を行ったその周期のうちに胚を戻す方法です。もうひとつは「凍結胚移植」で、胚をいったん凍結保存しておき、子宮内膜の状態が整ったタイミングであらためて移植を行います。
20年以上前は新鮮胚移植が一般的でしたが、いまでは凍結技術が大きく進歩したことで、むしろ凍結胚のほうが妊娠率が高くなることがわかってきています。とくに採卵周期はホルモンの影響(たとえばエストロゲンが高くなったり、早く黄体化してしまったり)で、子宮の環境がやや不安定になりやすいことがあります。そんなときは胚をいったん凍結して、子宮が整うのを待ってから戻すほうが安心です。特に刺激の強い採卵を行ったときは、凍結する方がよいことが多いです。
ただ、すべての方に凍結胚移植が最適とは限りません。新鮮胚のほうが向いている場合もあり、その時のホルモンの状態や子宮内膜の厚さ、スケジュールなど、さまざまな要素を見ながら、どの方法が良いかを一緒に考えていきます。
初期胚vs胚盤胞vs二段階胚移植
胚をいつ戻すか――これは実は大切なポイントです。大きく分けると「初期胚移植」「胚盤胞移植」、そして「二段階胚移植法」の3つがあります(二段階胚移植は、先進医療として届け出が必要な治療です)。
初期胚移植は、受精してから3日目の段階で戻す方法。胚盤胞移植は、さらに2~3日培養を続けて、5〜6日目の胚を移植します。そして二段階移植は、初期胚と胚盤胞の両方を、数日ずらして同じ周期内に移植するという方法です。
一般的には、胚盤胞移植の方が妊娠率が高い傾向があります。これは、初期胚のすべてが胚盤胞まで育つわけではないので、胚盤胞になったものは「ふるいにかけられて残った強い胚」であるという見方ができるためです。胚盤胞まで育つ割合(胚盤胞到達率)が高い方では、それほど差が出ないこともありますが、育ちにくい方では、効率よく胚を選ぶ手段にもなります。
とはいえ、必ずしも胚盤胞移植が正解とは限りません。たとえば胚が胚盤胞まで育ちにくい方の場合、体の中に戻したほうがうまく育つというケースもあります。実際、胚盤胞移植でうまくいかなかった方が、初期胚移植で妊娠されたというケースも少なくありません。
こうした結果から、単なる数字や理論だけではなく「その方と胚との相性」というような、データでは説明しきれない要素もあるのだと私たちは考えています。
二段階移植は、そうした“どちらが合うかわからない”という状況に対して、初期胚と胚盤胞を同じ周期内に移植することで、どちらかが着床してくれる可能性を広げる治療です。さらに、両方の移植が相互に良い影響を与え合うことで、妊娠しやすくなるのではないかという考え方もあります。
私たちは、「どれが一番いい方法か」よりも、「今のあなたに合っているのはどれか」を大切にしながら治療方針をご提案しています。
1個移植vs2個移植
胚を「1個だけ戻すか、2個戻すか」というのは、多くの患者さんが悩まれる部分です。
たしかに、胚を2個移植すると、妊娠率が上がる可能性があります。でも、その一方で双子や三つ子になるリスクも出てきます。多胎妊娠になると、お母さんの身体にかかる負担が大きくなるだけでなく、赤ちゃんの早産や低体重などのリスクも高くなってしまうのです。
それでも実際には、「1個では妊娠しなかったけど、2個にしたらうまくいった」という方もおられます。これは単に“確率が2倍になる”という話ではなく、胚同士が補い合ったり、何らかの相乗効果が働いているのではないかと考えられています。実際に、「どう考えても2個じゃないと妊娠しない」としか思えないような方も確実にいらっしゃいます。
だからこそ、2個移植が合っているかどうかは、人によって違います。年齢、これまでの治療歴、胚の育ち方などをふまえながら、私たちが一人ひとりに合った方法を一緒に考えていきます。
「どうしてもうまくいかない気がする…」というときこそ、移植の方法を少し変えるだけで結果が変わることもあります。小さな疑問や心配ごとでもかまいません。気になることがあれば、ぜひご相談ください。