着床障害の検査には、採血で分かるものと、生検などで分かるものに大別されます。採血で分かるものには、生活習慣や摂取栄養素と関連し、もし異常があった場合は生活習慣の改善やサプリメントの内服等で対応します。当院で行っている検査には、以下のようなものがあります。

銅・亜鉛検査

銅と亜鉛は、不妊症において重要な役割を果たすミネラルです。銅の過剰あるいは銅/亜鉛比高値の場合、着床障害や不育症と関連することが近年報告されています。日本人の食事は銅の摂取が多く、亜鉛が吸収されにくく、銅過剰、亜鉛不足になる方が意外と多いと言われています。

銅の過剰: 銅が過剰に体内に存在すると、子宮内膜に銅が蓄積され、受精卵の着床を妨げることがあり、妊娠率が低下する可能性があります。銅は体内で亜鉛と競合するため、過剰な銅が亜鉛の吸収を阻害します。

亜鉛の不足: 亜鉛は血中銅濃度を低下させる効果があります。それにより着床を助ける役割をします。

このような理由から銅と亜鉛のバランスは子宮内環境の検査の一環として行っております。 銅と亜鉛は体内で吸収経路が共通しているため、銅が過剰だと亜鉛の吸収が減少します。妊娠しやすい子宮内環境を作るためには、亜鉛を多く含む食材（牡蠣、豚レバー、プロセスチーズなど）を意識的に摂取し、銅を多く含む食材（牛レバー、エビ、納豆など）をさけ、バランスを取ることが重要です。また、必要に応じてサプリメントで亜鉛を補うことが、子宮内環境の改善に役立つとされています。

また、亜鉛はビタミンＣと同時摂取により、亜鉛の吸収力が高まります。当院の亜鉛のサプリメントは亜鉛15mgにビタミンCを配合しております。

ビタミンD

ビタミンDは、卵巣でのホルモン合成に重要な役割を果たし、卵の数や質、排卵に影響を与えます。また、子宮内膜の免疫機能や炎症の抑制にも関与しており、着床に適した子宮環境を作るために欠かせません。さらにビタミンDは妊娠中の合併症である妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスク低減にも関与するとされています。

ビタミンDは太陽光線を浴びることで体内で産生されます。食事からも摂取することができますが、日本人の食事では不足しがちです。そのため毎日の食生活から積極的にきのこや魚類などを積極的に摂ることが大切です。また、食生活から十分なビタミンDを摂取することが難しい場合は、サプリメントでの補充が有用です。

ビタミンDは脂溶性ビタミンであり、脂質と同時に摂取することで吸収がよくなります。そのため1日で最も食べる食後にまとめて摂取することをおすすめします。

ビタミンDを適切に摂取し、卵巣機能や子宮環境を整えることが、妊娠の成功率を高めるために重要です。

甲状腺機能異常

甲状腺は首の前方にある内分泌臓器でさまざまな種類のホルモンが作られています。その中でも海藻などの食べ物に含まれているヨウ素を材料にして甲状腺ホルモンを産生します。甲状腺機能亢進症でも、早産、常位胎盤早期剥離、胎児発育遅延や胎児の甲状腺機能異常などを引き起こす可能性があります。

甲状腺機能低下症では、妊娠中には流産、早産、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剝離などの周産期合併症のリスクが増加し、胎児の発育にも影響を及ぼすことが知られています。また、 症状はないものの、甲状腺刺激ホルモン（TSH）の値が正常範囲を超えて高く、FT3やFT4が正常である状態を潜在性甲状腺機能低下症と診断します。潜在甲状腺機能低下症は、着床率、妊娠率などに影響を与えることがあり、妊娠を希望する女性はTSHが2.5以下に保つことが推奨されます。甲状腺機能の管理には甲状腺ホルモンの補充療法（レボチロキシンなど）を使用します。また、検査によりTSH高値を指摘された方は、ヨウ素を多く含む昆布やひじきなど海藻類などの食品の過剰摂取を避けることや、イソジンなどのヨードを含んだうがい薬の使用を避けることをお勧めします。

このように甲状腺ホルモンは、妊娠の成立や胎児の発育においても非常に重要な役割を担っています。甲状腺機能に異常があると、不妊症や不育症の原因となることや妊娠中の合併症をきたす可能性があり妊娠前に十分なコントロールが重要です。必要に応じて専門病院をご紹介し、不妊治療開始前の治療をおすすめすることがあります。

耐糖能異常

耐糖能異常とは、血糖値の調節が正常に行われず、高血糖状態が続くことを指し、これが卵巣機能や妊娠に与える影響が注目されています。インスリン抵抗性が進行すると、インスリンの分泌量が増加し、血糖値を正常に保とうとしますが、体内でのインスリン効率が低下するため、血糖の調整がうまくいかなくなります。

HOMA-R（Homeostasis Model Assessment of Insulin Resistance）は、インスリン抵抗性を評価するための指標で、血糖値とインスリン値を基に計算されます。HOMA-Rは、2型糖尿病やメタボリックシンドロームのリスク評価に使われるだけでなく、不妊症との関連についても注目されています。高血糖状態が続くと、酸化ストレスが増加し、これが卵子や胎児細胞に悪影響を及ぼす可能性があり、卵子の質の低下や着床率の低下、妊娠率を低下につながります。そのため、適切な血糖コントロールが非常に重要であり、耐糖能異常が認められる方には食生活の見直しが推奨されます。糖質の過剰摂取を控え、蛋白質や脂質をエネルギー源として摂取する食事が効果的です。