着床をサポートする3つの子宮内注入療法
体外受精や胚移植において、移植する胚の質が良好であっても、子宮内膜が着床可能な状態でなければ、妊娠は成立しません。
胚盤胞まで到達したにもかかわらず着床に至らない症例や、子宮内膜の厚みが十分に得られない症例に対しては、子宮内環境の最適化が重要な治療戦略のひとつとなります。
当院では、子宮内に特定の成分を直接注入することで着床を補助する、3種類の局所療法を実施しております。
いずれの治療法も、局所的な介入であるため全身への影響が少なく、副作用も比較的軽度であることが特徴です。

G-CSF子宮内注入
G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)は、骨髄に作用して白血球の一種である好中球を増加させるタンパク質であり、造血刺激因子としてがん治療後などに広く使用されています。
近年、このG-CSFが子宮内膜の血流改善や細胞増殖を促進する作用を持つことが明らかとなり、不妊治療における応用が進んでいます。
子宮内にG-CSFを少量注入することにより、子宮内膜の厚さが改善され、胚の着床を受け入れやすい内膜環境が形成されることが期待されます。
とくに、ホルモン補充周期でも内膜肥厚が不十分な症例や、反復着床不全で原因が特定できない症例に対して、有効な選択肢となり得ます。

PRP子宮内注入(PFC-FD使用)
PRP(多血小板血漿)は、患者自身の血液を遠心分離し、血小板由来の成長因子を多く含む部分を抽出したものです。
このPRPをさらに凍結乾燥および濃縮処理した製剤が、PFC-FD(Platelet-Derived Factor Freeze Dry)です。
PFC-FDには、細胞修復、血管新生、抗炎症作用などに関与する複数の成長因子が含まれており、これを子宮内に注入することで、子宮内膜の再生や構造的・機能的改善を図ることが目的です。
体外受精を複数回行っても妊娠に至らない症例や、着床後の発育停止が繰り返される症例では、子宮内膜の機能的質が妊娠成立に影響している可能性が指摘されています。
このような背景に対し、PFC-FDを用いたPRP療法は、再生医療的アプローチとして、良好な安全性を保ちながら内膜機能の改善を目的とする治療法の一つです。

hCG子宮内注入
hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、妊娠成立後に胎盤より分泌されるホルモンであり、黄体機能の維持に重要な役割を果たします。
hCGは黄体を刺激してプロゲステロンの分泌を促進し、子宮内膜の着床受容性を高める作用を有しています。
近年、hCGを胚移植直前に子宮内へ少量注入することにより、内膜に対して着床促進シグナルを付与し、着床環境をあらかじめ整える手法が注目されています。
この局所hCG投与は、胚と内膜のタイミングを最適化し、着床成立率の向上を図る補助的アプローチとして導入されています。
ご相談ください
当院では、これらの子宮内注入療法を単独で適用するだけでなく、患者様の子宮内膜の状態や治療経過に応じて、複数の療法を組み合わせた個別化治療を提案しています。
子宮内膜の反応性が乏しい、あるいは反復胚移植不成功が続いているといった症例に対しては、着床環境の多面的な評価とあわせて、最適なアプローチを検討いたします。
子宮内環境の改善が必要と考えられる方は、診察時にご相談ください。