男性の触診、超音波検査、採血
精巣の触診、超音波検査
精巣の触診と超音波検査は、精巣の健康状態や潜在的な疾患を評価するために欠かせない検査です。
触診は、臥位ないし立位の状態で直接患者さんの陰嚢を触れて、精巣の大きさ、形状、硬さ、そして痛みの有無などを評価します。また超音波検査では、プローブを陰嚢に軽く当て、精巣内部やその周囲をリアルタイムで映像として観察します。これによって、男性不妊症の原因として最も多い精索静脈瘤の有無や精巣腫瘍の有無、さらには精路の狭窄や閉塞の可能性など、男性不妊の原因となり得る疾患の評価が可能になるので、基本的に初診の患者さんには必ず行う検査です。
ホルモン検査
ホルモン検査も男性不妊症の診断と治療方針の決定のために重要な検査です。当院では、採血で主に以下の3つのホルモンの検査を行っています。
・FSH(卵胞刺激ホルモン):FSHは脳下垂体前葉で産生されるホルモンで、主に精巣で精子を造るための刺激を与えるホルモンです。
・LH(黄体形成ホルモン):LHはFSHと同様、脳下垂体前葉で産生されるホルモンで、主に精巣で男性ホルモン(テストステロン)を造るための刺激を与えるホルモンです。
・テストステロン:主に精巣で産生される男性ホルモンで、精子を造るために必要不可欠です。また性欲や勃起も司っています。
ホルモンに異常がある場合、そのパターンによって問題のある箇所を特定し、適切な治療方針を決定することができます。例えば、高FSH、高LHの場合は精巣自体に問題があることが示唆されますが、一方で低FSH、低LH、低テストステロンの場合は、下垂体や視床下部に問題があることが示唆され、この場合薬物療法が奏功する可能性があります。
染色体検査
細胞の核の中には遺伝子が存在するということは、誰しもがご存知のことかもしれませんが、遺伝子はバラバラに存在するのではなく、何本かの束になって存在しています。この遺伝子の束が染色体です。男性不妊の原因の一つとして、この染色体に異常があることが挙げられます。染色体異常には、構造異常(転座、逆位、欠失など)や数的異常(クラインフェルター症候群など)があり、特に無精子症の場合や、極端に精子数が少ない、または運動性が低い場合などに関連することが多いため、重症の造精機能障害を認める方には必須の検査であり、採血で測定します。
染色体異常が明らかになった場合、例えば無精子症の方に最も多いと言われているクラインフェルター症候群(47,XXY)の場合、microTESEによる精子回収率はむしろ高いため、当院では積極的にfresh microTESE-ICSIを推奨しています。一方で、XX男性の場合などでは、自身の遺伝子を持った子供を得ることが困難であるため、別の方針を検討していかなければなりません。
また治療方針の決定以外にも、染色体異常の受精卵が出来やすかったり、将来子供に不妊症などの、親と同様の問題が生じる可能性があるため、染色体検査をすることは、ご夫婦が家族計画を立てる上での様々なリスクを考慮する一助になります。
AZF検査
AZF(Azoospermia Factor)は男性のY染色体に存在する一群の遺伝子群で、造精機能に関与しています。AZF遺伝子にはa、b、cという3つの領域があり、これらのいずれの領域に異常(欠失)があっても男性不妊症の原因となるため、染色体の場合と同様に特に重症の造精機能障害を認める方には必須の検査であり、採血で測定します。
以下にお示しするように、欠失のパターンによって治療方針が異なります。
AZFa欠失:この領域に欠失がある場合、無精子症になります。Micro TESEを行っても精子回収の見込みはなく、精子提供による妊娠が唯一の方法となります。
AZFb欠失:この領域の欠失も、基本的にはAZFa欠失の場合と同様に無精子症になります。Micro TESEを行っても精子回収の見込みはなく、精子提供による妊娠が唯一の方法となります。ただし部分欠失の場合には造精機能が保たれている可能性があり、Micro TESEで精子回収できる可能性があります。
AZFc欠失:この領域の欠失は、そのパターンによって全く問題のないものから無精子症に至るまで様々な異なる病態を示します。無精子症の場合でも、Micro TESEによる精子回収率は、欠失のない方と比べてむしろ高いため、当院では積極的にfresh Micro TESE-ICSIを推奨しています。
以上のように、AZF検査は染色体検査と同様に、男性不妊症の原因を遺伝的に特定し、治療法の決定や遺伝カウンセリングの必要性の評価などに役立つ、大変重要な検査です。